上の順で記す(m. : 男性、 f. : 女性、n. : 中性)。英語は誰でも分かるので省く。
フランス語のみ、形容詞形も下に添える。
春 ver n. printemps m. Frühring m., Lenz m.⦅雅⦆
printanier, vernal
夏 aestas f. été m. Sommer m.
estival
秋 autumnus m. automne m. Herbst m.
autumnal
冬 hiems, hiemps f. hiver m. Winter m.
hivernal
一覧を見ると、フランス語がラテン語の直系子孫であることが明らかであろう。
printempsだけは、ラテン語のverからではなく、同じラテン語のprimus tempus「第一の時期」から来るのである。但し、vernalという形容詞はverから来る。
これに対して、ドイツ語は英語との共通語も見られ、ラテン語から来る語は一つもない。
性に関しては、フランス語とドイツ語が全て男性であるのに対して、ラテン語には性にばらつきがあるのが興味深い。
ここでまた、マラルメの詩に戻ろう。
『ステファヌ・マラルメ詩集』所収の詩の中にプレオリジナル(初稿)がラテン語のタイトルを持っているものがある。
Renouveau「陽春」という詩だ。この詩は元々、Vere novo[ウェレ ノウォ](日本でラテン語を学んだことがある人は「ヴェレ ノヴォ」とは発音しない。ヨーロッパ各国では、それぞれの母国語に合せた発音をしているようだが)というタイトルであった。
このラテン語の文法的解析をおこなう。
vereは上に挙げたverの単数奪格。
novoはnovus「新しい」という形容詞の、中性単数奪格であり、vereに掛かるので、これに性数一致している。
「立チ返ル春…」と訳されることが多いが、直訳は「新しい春に[から]…」。「~に」なら、inという前置詞を付けたいところだが、前置詞を付けるのはエレガントでないというマラルメのpréciositéのなせる業だろうか。