sed non satiata
「サレドナホ足リズ」と伝統的に訳されてきた。
これでは何のことかさっぱり分からない。
なので、阿部良雄全集では「サレド女ハ飽キ足ラズ」と訳されている。
前の詩と同様、わざわざカタカナを用いるのは、ラテン語で書かれていることを示唆するためである。
毎度、ここでは語学的解析しかしない。
sedは逆説の接続詞で「しかし」。英語のbut、フランス語のmais、ドイツ語のaberに相当。
nonは否定の副詞で、英語のnot(以下略)。
satiataは、satio, areという第一変化の他動詞「満足させる」の完了分詞satiatusの女性単数主格。現代語文法では過去分詞に相当。よって、英語に訳せばsatisfied。
主語も述語動詞もない。
一番上の日本語訳は、英訳と全く同様、性数変化がないので、誰が満足していないのか分からない。フランス語ならpas satisfaiteと最後にeが付くから、女性単数だと分かる。
だから、阿部訳では「女ハ」と付け加えられているのである。
余談だが、何に満足していないのか?
娼婦のことを指しているのだから、まだ性欲が飽き足らず、ということである。
なお、マラルメの有名なアクロバティックな詩、所謂yxのソネに出て来る三途の河Styxがここに登場することを付け加えておこう。