4月28日の記事に書いた「破格文」という表現は適切でないと、大学院の先輩から御指摘がありました。よって、この部分を「省略文」と訂正します。

理由は、「破格文」という文法用語があり、この文の場合はこれに相当しないということによります。これはラテン語の構文に関するかなり高度な知識を必要とします。私はフランス文学者ですので、ラテン語を深く学んでいる方には知識が劣ります。

しかし、お相手が上級者でなければ対応できますので、ラテン語を初歩から順を追って学ぶことに興味がおありの方は、是非お問い合わせ下さい。一緒に時間をかけて学んでいきましょう。

マラルメにはラテン語のタイトルの詩はないとも書きましたが、詩集に掲載されたもの以外なら1つ短いのがありました。

Mysticis umbraculis  神秘ノ翳リニヨッテ

この詩は、Prose des fous(愚者たちの頌歌)という副題がカッコ付で加えられている。

たった6行。2つの三行詩tercetからなる詩である。

短いので、原文と、日本語版『全集』の訳をここに掲げよう。

Elle dormait : son doigt tremblait, sans améthyste

Et nu, sous sa chemise : après un soupir triste,

Il s’arrêta, levant au nombril la batiste.

Et son ventre sembla de la neige où serait,

Cependant qu’un rayon redore la forêt,

Tombé le nid moussu d’un gai chardonneret.

彼女は眠っていた。おののく指は紫水晶もつけず

下着のなかでむきだしのまま。悲しげな吐息のあとで

指が停まった、へそのあたりに薄麻布をもたげて。

すると女の腹は、さながら一面の雪の上に、

陽射しが森を黄金色に染めなおす時刻に

陽気なヒワの苔なした巣が落ちたかのよう。

                                                                      (田中淳一 訳)

1862年、マラルメ20歳の作とされる。

当時マラルメが住んでいた地方都市サンスでは中世以来、伝統的に、1月1日のキリスト割礼祭を、謝肉祭を催して祝福する慣わしがあったことを知らないと理解しにくい、というステンメッツによる解説がある。いずれにせよ、エロチックな詩であることは明らかであろう。

内容はともあれ、ここではラテン語タイトルの文法的解析が目的である。

mysticisは、mysticus「秘儀の;神秘的な」という形容詞の中性複数奪格で、次の名詞にかかる。

umbraculisは、umbraculum「影;日陰になった場所」という中性名詞の複数奪格。

両方で、「神秘の影によって」となる。

こうした名詞と形容詞の格変化は、現代語では退化しており、この意味を前置詞を付けて補う。この語尾変化に通暁することこそがラテン語の理解の鍵になる。暗記できなければ、活用表を見ればよい。数百回繰り返して覚えてしまう。軽薄短小、楽することばかり考えていたのでは面白味が理解できないだろう。

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